カンガルーマンの暇つぶし

暇つぶしです。言語化しないと、意味がない気がして。

猫を棄てる 父親について語るとき 村上春樹

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村上春樹さんのエッセイ 「猫を棄てる 父親について語るとき」です。

 

村上春樹さんご自身が、いつかまとまった形で文にしたかったと述べられていた父親についての作品でした。

 

男児の多くにとって、父親の背中は、他の年配男性と違い特別なものを感じさせてくれる。私もそうである。いつか、父を超えられるようになりたいと、いつも父の背中を追っている。

村上さんご自身にこのような感情があったのかは、不明であるが、作中の言葉をそのままとってしまえば、村上さんにとっては、一つの葛藤のような存在であったようである。

 

村上さんは、父の歩みを振り返る過程で、「もし」という表現を用い、父の存在・在り方・歴史が少しでも違えば、今の自分はいなかったのかもしれないと、

父親について考える過程で、しみじみと感じられていたようであった。

 

「結果は起因をあっさりと呑み込み、無力化していく、」

 

いじめを生む教室 子どもを守るために知っておきたいデータと知識 感想

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学校現場においけるいじめ問題について、様々な実証研究を取り上げながら論じていくいじめ研究の集大成の書です。

どのような環境でいじめが起きやすいかという問題から、どのような属性に基づいたいじめが長期化につながりやすいのかについてわかりやすくまとめています。現場の先生方は一読しておく価値があるように思います。

一時期、いじめ研究を片っ端から目を通していた時期があったこともあり、前半部のデータは見たことが多かったので、肩透かしを喰らったように感じていましたが、中盤あたりから論じられていくセクシュアルマイノリティのいじめ問題については、非常に興味深いと感じました。

著者が、学習指導要領の改定に関する議論の際、「思春期に異性への関心が高まる」という保健教育への記述に疑問符を抱いている点に非常に共感することができました。これからの性教育において、セクシュアルマイノリティに対する態度や知識についても学んでいく必要があると感じているため、そのための教育について、性的違和を感じている子ども達にどのような支援をしていくのかについても考えていく必要があると感じました。

 

また、後半部では、ネットいじめについても論じられていきます。現代社会ならではの、特徴的ないじめという印象の強いネットいじめですが、著者は、従来のコミュニケーション操作型のいじめに過ぎないと論じていきます。現実次元で被害者になりやす子は、インターネットの世界でも標的になりやすいにすぎない。いじめ防止教育の徹底を行う必要性についても論じられています。

 

最後になりますが、「学校の先生の力でいじめをなくせ」と主張するばかりではなく、現場の先生方の労働環境の問題へとメスを入れてくださり、現場への理解を示した上での提案をしてくださっている萩上チキ先生に感謝と尊敬の念を抱いた書となったことを記しておきます。ありがとうございます。

 

マーチ博士の四人の息子<感想・ネタバレ>

  1. マーチ博士の四人の息子

ブリジット・オーベル 作   堀 茂樹・藤本優子 訳

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1992年に書かれたオーベルの処女作である。今まで多数の本を読んできたが、本作のように、ホームズ役である家政婦と殺人者の日記を通して物語が展開していくものは初めて見た。

本作は、家政婦が働き口のマーチ家で殺人者の日記を見つけることから始まる。殺人者自身が、この家の子どもであることを自供していること等から、家政婦は、マーチ家の4人の美青年達の中の中にいる犯人を探していくという物語だ。

この物語の犯人は、女性を殺したいという強い殺人衝動を抑えられなくなった人物だ。物語の中で、何人もの女性を殺していく。時には刺し殺し、突き落とし、事故に見せかけ多様な方法で殺して行くがそこに、美しさはなく、単なる衝動的な殺人である。

真犯人は、家政婦の二重人格とか兄弟の中にいないといった展開でなかったことはありがたかった。だが、あの展開で行くのならタイトルを「マーチ博士の息子達」のようなものに変えておいて欲しかったなと感じた。

日記形式で物語が展開していくので、家政婦のメタフォリカルな視点での考察等があり、面白かった。単純な自己内省に留まるのではなく、日記中に自己の葛藤を記しながら、自分の考えを整理して行く家政婦の様子を丁寧に描写していたことが本作で最も秀でていた点であったように思う。

ミステリー小説好きは一読する価値があると思いますが、それ以外の方は、平坦な展開に退屈してしまう人もいるかもしれません。